[書評]生命の<系統樹>はからみあう

感想
生命の〈系統樹〉はからみあう: ゲノムに刻まれたまったく新しい進化史 | Quammen, David, クォメン, デイヴィッド, 知之, 的場 |本 | 通販 | Amazon
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著者:デイヴィッド・クォメン 的場知之訳

本書は、2018年に書き上げられたが(日本出版は2020年2月)、著者が書くきっかけとなったのは、フォード・ドゥーリトルの1999年のサイエンス論文を2013年に読むところからはじまる。この後、本書の主人公と言えるカール・ウーズの研究に出会い、分子系統学・生命の樹の根本的な再検討というテーマに気づき、約5年をかけて広範な関係者に取材をしまとめた本である。著者は元々科学雑誌の有名なサイエンスライターのようだが、アメリカで各種賞を受賞している。

注釈を入れると400ページを超える分量だが、読者の前提とされている知識は高校生物程度なので、ゆっくり読めば誰でも読めるだろう。逆にゆっくり読まないと消化できない。飛ばし読みはできない類いの本だと思う。まず登場人物(ほとんどは生物学・科学・物理の研究者)が多く、何度も登場するので、人の名前を記憶するのが苦手な私には結構なストレスになる。メモを取りながら読めばよかったとかなり読んでから思ったが、戻ってメモを再構築する元気はなかった。それでも一人一人に対する記述が丁寧なので、不思議と私でも頭の中に人名は残っており、なんとかメモなしで読み通すことができた。

その敷居さえ超えてしまえば、本当に面白い本である。上質なオペラを聴くように読んでいけば、読み終わった後には充実した読後感が得られると思う。

基本はダーウィンが発見した変異・遺伝・淘汰による生命の樹による種の進化・分岐説から始まる。この単純なモデルが、現代では見るも無惨な姿になっている(今後はもっとずたずたになっていくかもしれない)のだが、そこに至るまでの研究とその研究者、そして研究者の人間性についてスポットを当てていく。それらの中でも分子系統学を樹立したカール・ウーズを主軸として描く。

カール・ウーズは、リボゾームの構造RNAの暗号を解析・分類する方法を編み出し、それまでは原核生物・真核生物の2ドメインであることが定説だった生物を、現在の主流である、細菌・アーキア・真核生物の3ドメインに分けられるという説を唱えた学者で、本人はノーベル賞を欲したが、研究のアピールがあまりうまくなく運にも恵まれなかった。社交的ではなかったが、友人になった研究者とは長く親交を結び、本当に好かれるホスピタリティを持った人で、魅力的に表現されている。

カール・ウーズは3ドメイン説を唱えたところで、この説が本当に革命を起こす説だと確信して、この説にこだわりすぎたため、その後の早すぎる学会の流れにうまく乗ることができなかった。この流れとは、遺伝子が親から子へという縦だけではなく、水平に伝搬するという現象が次から次へと発見され、もはや生命の樹は樹という形では表せないことが明らかになっていくことであった。ある意味失敗者(こんなことを書くとウーズに叱られますね)のウーズを主人公として物語を描くことで、本書をよりリアリティのある、人間くささと魅力に満ちたものにしている。

研究者たちの人となりの記述は魅力的だが、もちろん新説がどんどん提唱され、生命の樹の成り立ちが変わっていく生物学の進歩は驚きに満ちている。科学知識を身につけたいという目的に対しては、ストレートに答えてくれる本ではないので、現在の最新の説が知りたい場合は別の本に当たった方がよいかもしれないが、長いドラマティックな展開を観ながら、同時にミステリーの筋を追うように科学知識が身についてしまう。

長い時間と多くの取材で長大な物語を飽きさせず読ませる著者の手腕と努力に敬意を表します。訳も秀逸で、美しくわかりやすい日本語で全体を訳すのは相当の苦労があったと思います。感謝します。確か日経サイエンスの書評で本書を知ったと思いますが、読めて本当によかったです。

コメント

  1. […] 「生命の<系統樹>はからみあう」を読んだ中で、作者が自分は市民ケーンの中で顔が見えない記者のようだと書いており、この映画をおすすめしていた。Amazon Primeで無料で観られるようなので、観てみた。 […]

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